去年なら朝7時には目が覚めて、市立公園を少し散歩した後でそのまま楽譜を持ってカフェでコーヒーを飲みながらレッスン曲のチェックをしていたのに・・・・・。
今年は、日頃の連続夜勤の蓄積疲労からなのか、朝7時に目は覚めるのだが体が動かない。従って、レッスンのギリまでベットでウダウダしていた。勿論、昨日の迷子騒動もあったのだとは思うが。

9月30日、14時からコンチェルトハウスのB先生のシューベルト歌曲のレッスンが入った。10分前にはコンチェルトハウス前で待ち合わせ。
今回のウィーンでのレッスンで特筆するべきは、若いピアニストと一緒にレッスンを行うという事。
本当なら、本日2つめのレッスン、N先生とM先生のレッスンで初顔合わせとなるはずだったのが、ピアニストのEさんもB先生のレッスンを聴講したいという事で、お見えになった。
疲労が酷くて喉の調子は最悪。朝にちょっとアパートで声を出して見たら、声が掠れていた。でも、ここで頑張って張り切って声を張り上げてた所で、ど〜しょ〜も無い。レッスンはまだ6日間も続くのだから。コンチェルトハウスの前で待ち合わせたM先生とピアニストEさんに、正直に今日の喉の調子は最悪である事を話した。M先生は、
「調子の悪い時に無理して押して声を出さない方がいいわよ」
と仰って下さったので、遠慮無く軽めの発声で歌う事に努めた。そして、この喉の調子の悪い時に比較的得意とまでは言わないが歌い込んでしまいがちな曲を選曲すると、後に響くし辛くなるばかりだと踏んだので、今日は敢えてウィーンにレッスンに持ってきたシューベルト歌曲の中でも一番不得意で苦手な「Fischerwise」を選択した。この曲は中低音域も多いので、無理して声を出そうと張り上げたりさえしなければ、ある意味高音域を出さなければならないような曲よりも声帯の負担が軽いだろうと考えたからだ。
日本人ピアニストEさんは、まだ25歳で、日本の公立高校の音楽科を経てウィーンに留学して今は大学院生だという。とてもお若かったが、ハキハキしたカンジの方。

約1年半振りのB先生は、全くお変わり無く陽気なウィーンのジェントルマンだった。今回の御土産は、B先生と奥様が甘いもの好きという事で、日本の代表的なお上品なお菓子、これならウィーンの方にも好まれるのではと思い散々悩んで選んだ「風月堂ゴーフル」♪
御挨拶も程々に、早速シューベルト歌曲のレッスン開始。
案の定、全く声は響かないしブレスも続かない。しかし、なるべく押さない、押さない、と頭の中で念じつつ丁寧に楽譜を読み歌う事だけを心掛ける。変則的な有節歌曲のため演奏時間もちょっと長め。一度歌い終わってから早速B先生から矢継ぎ早にドイツ語での指摘が大きな声で話される。
「テキストの読み方が足りない。ウムラウトの発音が違う。最初はもっとゆっくりのテンポから練習するように。明るく楽しく陽気な漁師の歌なのでもっと曲に表情を付けて。ドイツ語はもっとレガートな発音で母音を長めに取る事。」
そして、テキストの朗読から再開始。テキストを読む時もきちんと漁師を演じながら読むように指摘された。これを数回繰り返して行った。その後、再度歌唱に戻る。
こういう所で難曲はボロが出る。練習不足はテキメンに表れる。ウィーンにレッスンに来る大分以前から今年の自分の練習不足は嫌という程認識していた。
だからこそ、ここで凹んでイジケてはいられない。私はウィーンのレッスンに完成品を持って来たワケでは無い。一からのレッスンに来たのだ。それで余りにも不足過ぎだからレッスンを断られるならば、それはそれで仕方が無いのだ。
私は、日本で出来る限りの事は、やって来たのだから。
何度かドイツ語の発音を修正されながら歌い続けて、B先生から更なる指摘が飛ぶ。
「ドイツ語の歌詞の言葉の内容によって音色を変えなければならない。有節歌曲はバリエーションが必要である。音符の動くフレーズは音程が下がらないように音程を高めに取る事を心掛ける事。ピアノ伴奏に留意して特にピアノ伴奏の和音と半音でハモる音はきっちりと合わせるように。テキストがちゃんと頭や体に入っていないと音楽の表現まで行きつかない。ドイツ語の語尾まできちんと聴こえるように発音する事」
兎に角、多くの事を一度に指摘される。しかし、もしB先生がこれらの指摘が私にとって不可能な指摘なら、敢えてここまで多くの指摘はしないだろう、そうポジティブに考える事にした。何しろ、これからまだまだレッスンは続く予定なのだから。
何度か歌って行き、B先生から、
「これから良くなって行くだろう」
と何とかお許し頂けた。私がホッと胸を撫で下ろしていると、M先生が今日の私の状態を説明して下さった。日本での仕事の疲労と長旅で喉の調子が良く無い、という事。するとB先生が、
「去年、あなたは随分大きな声で歌っていたのにどうしたのかと思ったら、調子が悪かったのか!!!」
と(笑)言い訳にはならないけれど、この6日間のレッスン中に何とかいつもの調子に近い状態にだけでも持って行く事が出来たらと思った。

レッスンが終了して、今後のレッスン予定の話し合いを行った。最初の予定ではB先生のレッスンは3回程という事だったのだが、ウィーン滞在中に後4回レッスンをして下さるとの事。B先生のレッスンは計5回となった。これはちょっと想定外だったが、レッスン予定の曲を多めに持って来ておいた事はラッキーだった。最初は3回のレッスンなら6曲と考えていたのだが合計10曲レッスン予定の曲を準備だけはしておいた。無論、練習不足ではあったが、何とか楽譜を読みこめている曲から順番にレッスンに挙げて行ければ良い。去年のリサイタル本番に乗せて歌ったシューベルト歌曲でまだB先生にレッスンを受けていない曲もある。取り敢えず、次の日のレッスン曲を決めてB先生のオフィスを後にした。

M先生は、
「こんなに調子が悪いのだったら、先に少し発声練習をしてくれば良かった。御免なさいね」
と仰って下さった。大変有難かったが、これが今の自分の実力なのだから、体調管理も含めて当然の状況と考えていたので、それ程凹んではいなかった。却ってM先生に気を使って頂いて申し訳無いくらいだった。それに、聴講に来ていたピアニストにも私の最悪の状況をまず聴いて頂けて良かったと考えた。これでもまだ私と一緒にレッスンを受けて頂けるのならそれは大変有難い事だし、逆に今日の調子の悪さで私とのレッスンを中止するのもアリな事だと考えたからだ。これはピアニストの自由。私もピアニストのEさんに、
「調子が悪いとこんな状態ですから、一緒にレッスンして頂くのは却って申し訳ないと思っている」
と正直にお伝えしたが、ピアニストは然程問題にしていないようだった。逆に、私が声帯の調子が最悪の状態でレッスンに持ってきた曲の中で一番苦手な曲を歌った、という事に大変驚かれていた様子だった。M先生もピアニストのEさんも、
「普通調子悪い時に苦手な曲は持って来ない。どちらかと言えば、得意な曲を持ってくる。それはスゴいと思う」
と一様に驚いていた。でも、私にしてみれば、比較的歌い込んでいる曲は折角ウィーンでのレッスンでみて頂くのなら、調子の良い時にこそ歌いたいというのが正直な心情だったから(苦笑)
今日歌った「Fischerwise」は「Die Forelle」と同じくらい苦手な歌曲。
魚を食べるのは大好物なのだが、歌うのは苦手。


コンチェルトハウスを出てゆっくり歩いて、少し時間をおいてからN先生とM先生のオフィスで今日2回目のレッスンを行う。
まだまだ、これから。始まったばかり。