流石、長年数々の修業、演奏を続けて来た大先輩達。言う事全て肝が座っててブレない。ストレートで飾りが無い。段々と私の《お悩み相談室》の様相を呈してしまった(滝汗)それでも雑談を交えて話しを聞いて下さった。
な〜んだ、ドイツ語話せなくたってドイツ語直されたって他人の2倍3倍時間が掛かったって別に良いんじゃないか〜(笑)なにげにサラっとそう得心してしまった。凄い説得力だった。
お悩み相談ばかりでも良く無いので、バロック音楽の話しをした。私はバッハが大好きでバッハの平均律はヘンレ版の楽譜を2冊見ながらCDを聴くという話しをしたら、ピアニストの話題になった。私は看護学校の音楽の先生に勧められてリヒテルのベーゼンドルファーの録音を持っている話しをしたら、そこから《平均律考察》になった(笑)ピアニストさんが、
『私達の時代はリヒテルしかなくて、リヒテルが一番で、リヒテルがバッハだったんだけど、私の知り合いに以前言われたんだけど【リヒテルのバッハを聴くと、バッハじゃなくてリヒテルを聴いてる事になっちゃうんだよな】って言われて。それからは、もっと親しみやすい身近なバッハでも良いのかな、と思うようになって(笑)』と話された。
すると、ヴァイオリニストが、
『平均律弾かないの?弾いてあげたら?』
と仰って下さった。そこでピアニストがバッハの平均律1巻の10番くらいまで続けて弾いて下さった。私は2〜3曲位弾いて貰えるのかと思っていたのだが、ピアニストは自分が疲れるまで弾いて下さった。平均律は1巻通して初めて1曲なのだとその時実感した。ピアニストの平均律を聴いていて一つ忘れていた事を思い出した。私は中学生時代に自分の小遣いで、ケンプの平均律のLPを購入した事があった。ケンプという選択はピアニストもヴァイオリニストも大変気に入って下さった(笑)録音探さなきゃ。
その後、ピアニストがベートーベンのピアノソナタ【悲愴】を弾いて下さった。来月上野でのリサイタルで演奏されるという事で、練習だとピアニストは言っていた。
が、演奏を聴いてびっくり仰天した。第一楽章が終わって第二楽章に移る時、余りに《場》の空気が変化したのを感じて思わず鳥肌が立った。あんな鳥肌が立つような演奏を聴いたのは久しぶりだった。ノーマン以来かも知れない。このまさしく「鳥肌」が恐らくこのピアニストが《他人の3倍かけた時間》なのだろうと痛切に感じた。これが真の演奏家なのか、と身震いがした。