sの発音がきついのでもっと柔らかく発音する事、ウムラウトの口の開け方にかなり注意する事、なるべく口を縦に開け柔らかく発音するよう心掛けるよう詳細なチェックが入った。
これは私の考えだけれど、やはり一度演奏会本番で歌った曲は如何に勉強不足と言えどある程度は流れを持って歌っているのかも知れない、だから先生方の指摘も自然と細かい事になるのだろうか、と少しだけ思った。
曲の表現として、テキストのセンテンスに関しては、例え感嘆詞がついていてもレガートを忘れない事、,(カンマ)がついていたとしてもそれはブレスをしないで時間をきちんと取って言葉を分けて歌う事、厳しいチェックが増えた。この【セレナーデ】ではM先生も度々私の側に来て、
『そこはブレスするところじゃないでしょ!』
とペンで私の楽譜にチェックを入れられた。B先生やM先生の要求に何とか対応して追い付こうと頑張ったが中々出来ない。やはり勉強が足りない、テクニックが足りない。悔しい、でも今このウィーンのコンチェルトハウスの中まで来てレッスンをしている、日本でレッスンをしていた時にほざいていた卑屈な愚痴なんざ今ここで誰が言うもんか、例えアマチュアでもそれが心意気ってもんだ!!!
【セレナーデ】についてはB先生に指摘された事の多くは私のテクニックではまだまだ出来ない事が多かった。これから日本に帰った後も引き続き勉強していくようにB先生からアドバイスを頂いた。
そして2曲目【菩提樹】ここまで来たら開き直るしかない、と自分に言い聞かせた。私はウィーンにリサイタルをしに来た訳でもドイツ歌曲の完成品を歌いに来た訳でも無い、レッスンを受けに来たのだ。
【菩提樹】出だしから早速止められた。B先生から同じ指摘が続く。
『出だしのAmの準備が遅れないように、ドイツ語の母音は充分に長く歌う事、sの発音は柔らかく、ウムラウトは口を縦に開けて』
さっきの【セレナーデ】と全く同じ指摘。自分の学習能力の余りの低さに悲しいよりも段々腹が立って来たが、そんな事よりもレッスンの時間は1秒たりとも無駄には出来ない。全身汗だくでB先生の指導に付いていく。B先生から、
『中間の短調への転調に変わっても停滞しないで音楽を進める事、次にUndから長調に転調したら表情を変える事、Ich(私)という言葉はもっとはっきりと発音する事、ウムラウト長めに発音する事、フレーズを途中で切らないでレガートに歌い続ける事!』
厳しいチェックと指摘が続いた。