発声が終わってから、まずベートーベン【フィデリオ】からマルツェリーネのアリア。ベートーベン歌曲【我汝を愛する】よりも先にアリアのレッスンをお願いしたのには訳がある。谷岡先生が、『N先生はオペラのちょっとコケティッシュな役を教えるのがとてもお得意だから、楽しんでレッスンを受けて来てね』
と教えて頂いたから。楽しめるかどうかは別として、マルツェリーネのアリアは記念すべきドイツ・オペラ第一号なのだ。まず歌いだし、いつもの事だが音楽が停滞しているのが自分でも解る。どんどんテンポが遅れて行くのが解る。そこですかさずM先生から指摘される。
『2/4拍子を4拍で捉らえて数えてるんじゃないの?2拍で数えてごらんなさい。楽譜見てみて。ベートーベンはだからわざわざ2/4拍子と指定しているのよ!』
つくづく自分の学習能力の低さに呆れ果てる。レッスンももう3回目である。しかも一日2レッスン。いい加減同じ指摘を受け続けるのは如何なものか。M先生の仰せの通り楽典は楽譜を見て考えるものであるのなら、私は楽譜を半分も見る事が出来ていないだろう。また同じ指摘、
『ブレスをする事によって曲のフレーズを切らないように!』
これも3日間言われ続けた指摘内容だ。
N先生から、
『ブレスが不足する事を怖がらないように』
と指摘された。私は発声でまだきちんと体が使えていないので、息漏れが多くブレスが不足する事がある。同一音の10拍とかロングトーンはかなり高い音でも自然に体が使えているので問題無いのだが、ドイツ歌曲で4小節フレーズが動いてのノンブレスは厳しい事が多い。するとM先生が、
『もし途中でブレスが足りなくなったら、私はわざわざここでブレスを切って表現しているのよ!!くらいの度胸と技が必要よ』
と言われた。成程、理解納得。
とにかく3日連続でN先生からもB先生からも指摘され続けた事が繰り返された。ドイツ語の母音をもっと長く丁寧に歌う事、丁寧だが音楽が停滞しないように前に進む気持ちで先のフレーズを考えて歌う事、ドイツ語の単語が長い単語の場合は単語の何処にアクセントがついているのかを考えて歌う事、歌詞の接続詞は余り大事ではない事が多いので大切な言葉を丁寧に歌う事、テキストの文節はブレスをするのではなくてきちんと区切って歌われなければならない事などが、耳にタコが幾つ出来たか解らないくらい繰り返し指摘された。M先生から、
『そこは区切らなきゃいけないけどブレスの必要は無いでしょ!』