日本に帰ってバッハのシュメッリ歌曲集の録音を探して購入して聴いて自分で選曲してから改めて谷岡先生やハリセン先生のレッスンで御相談して曲を決めようと考えている事をM先生に説明した。私の話を聴いたM先生が仰っしゃった。
『あなたぐらい歌えるんだったらもう歌手の録音を聴いて曲を覚えるのではなく、まず最初に楽譜を見て、楽譜を見ながらどんな曲なんだろう?って想像して自分で音楽を造って行く事、あなたぐらいの音楽性があったら絶対に出来るはず。それから歌手の録音を聴くべきじゃない?これからはそのようにして行ったら?』
と指摘された。痛い。はっきり言って、痛い。ウィーンに来てまさかそこまで要求される状況になるとは考えてはいなかったが、少なくとも日本であれウィーンであれ、いつかは指摘される事は覚悟してはいたのだけれど、仕事の忙しさと勉強するために抱えている曲数の多さからこの事の必要性やら重要性に関しては、頭の片隅に追いやって余り考えないように振り返らないようにしていた。が、M先生に指摘されてしまってはもう見ないフリは出来ない。全曲初見勉強は無理でもせめてバッハのシュメッリ歌曲集だけでも初見から勉強を始めなくてはならないだろう。
ウィーン最後のコンチェルトハウスでのB先生のレッスン。到着するとB先生は何だか妙に溌剌としていて、しきりに、
『Thule Thule』
と連発していた。そう、シューベルト歌曲【トゥーレの王】の事だな、という事はドイツ語を話せない私にも解った。余程【トゥーレの王】のレッスンが楽しみだったのだろうか?(滝汗)早速【トゥーレの王】のレッスン開始したのだが、1番を歌っている途中でいきなりB先生に止められた。『この調はあなたには高過ぎる。あなたは中音域も出るし、この曲はもっとロマンティックな響きが必要な曲なので、もう一段キーを下げて中声用で歌った方がいい』
と言われて、B先生は急遽中声用の楽譜を探して持って来た。をいをい頼むよ〜(超苦笑)私は【トゥーレの王】を中声用のキーで歌った事は一度も無い!!!しかもこの曲は非常に音程に神経を擦り減らす曲なのに、このウィーンでいきなりキーを変更して歌うとは・・・私はメゾか!!!と困惑しながら歌再開。すかさず出だしで止められる。『最初のEsの言葉はアウフタクトで、フレーズを切らないで、レガートに歌って』
B先生から連日の同じ指摘が繰り返される。レガート・・・嗚呼、言うは易し行うは難し(超凹)