それでもB先生はいつもながら、
『良く勉強して来ている』
と言って下さった。今後この【トゥーレの王】は中声用のキーで歌うよう勧められた。
そしてウィーンでB先生の最後のレッスン曲、シューベルト【こびと】実は昨日まで【こびと】のレッスンをB先生にお願いするかどうかかなり迷っていた。無論この【こびと】という曲がかなりの難曲である事、日本人はおろか名歌手やオーストリア人やドイツ人の録音ですらかなり希少である事、その曲を私が今本当にレッスンを受けるべきなのかどうか、今レッスンを受ける必然性が存在するのかどうか、直前まで自分自身判断する事が出来なかった。昨日のかなり厳しいレッスンでせめてこのドイツ歌曲の難曲【こびと】の中に存在する何か一つでもいいからシューベルトの生きていたこのウィーンから僅かでも見つけて日本に帰りたい、自分にはかなり分不相応な《欲》が出て来た。このコンチェルトハウスでシューベルトの専門家B先生の前で【こびと】を歌う事、実際にどれ程の御指導を頂けるのか余り余計な期待は出来ない。それでも是が非でもこの【こびと】のレッスンを受けたい、いや例えどのようなレッスンであっても受けて帰らなければならない。そう決めた。
【こびと】のレッスンの前にB先生から質問された。
『この曲は非常に謎で結局解らない事がとても多い曲です。あなたはこの曲のストーリーを知っていますか?ではまずこの曲のあなたの解釈を聴かせて下さい』
・・・・・・・・・・。
もう驚かなかった。アナリーゼを要求される事は予測していなかったが、これだけの曲をレッスン受けるつもりなら至極当然の事だと言える。私は答えた。「小人が王妃を殺してしまう。小人は王妃が王に嫁いで自分の事を忘れてしまった事による王妃への悲しみと憎しみで王妃を殺してしまう。愛情とは・・・違うと思う」すると、B先生がとんでもない事を話し始めた。
『ではあなたは、こびとは自分の意思で王妃を殺したのでしょうか?それとも、王の命令で殺したのでしょうか?そもそも何故こびとは王妃とたった二人きりで船に乗っていたのでしょうか?』
私はただただ驚愕していただけだった。そんな事考えた事が無かったというか、自分自身が考えた事以外の解釈の存在など疑問すら持たなかった。もはや何の考えも浮かばなかった。ただ、何故こびとは王妃と二人きりで船に乗っていたのか?私は「こびとが王妃を殺すため?」と一言答えるのが精一杯だった。他は何も思いつかなかった。