日本へ帰国の日のレッスンは、N先生との話し合いに決めた。だけど、このウィーン最後の日が私の人生の中でも非常に悲しい日となってしまった。
朝、N先生がペンションの前に車で迎えに来て下さった。N先生のオフィスに着くまでの間、N先生は私がお土産に差し上げたお蕎麦がとても美味しかった事、自分は日本酒も大好きである事など話して下さった。
オフィスに到着すると、出勤前のM先生が慌ただしいく準備されていたが、すぐいなくなってしまった。さあ、会話をどうしようか・・・(滝汗)でも黙り込んでも仕方が無いので、超ド下手な英語でN先生に話しかけた。以下、日本語で表記。
「今日はお話がしたいんです」と言うとN先生はグランドピアノの蓋に置いた手を止めて了承して下さった。
まず、私の声質について尋ねた。私は日本では先生方や音楽に詳しい方からはリリコ・スピントまたはスピントと言われている。それを話すとN先生はかなり驚いた様子で私に向かって、
『あなたはヨーロッパではリリック・ソプラノです!!!』
と答えられた。かなり日本と違う。実際はN先生と同じ評価の日本人もいるのかも知れ無い。ヨーロッパでは日本よりももう1〜2段は軽い声と評価されるかも知れ無いとは考えた。
決して想定外の事では無かった。ではレパートリーとしてはどうなるのか?まず知人と約束をしたモーツァルトから。N先生からは、
『歌曲は沢山あるから色々な曲を歌う事が出来る。【夕べに】など美しい曲を勉強してみるように。モーツァルトのオペラに関しては、【ドン・ジョバンニ】のツェルリーナ、ドンナ・エルヴィーラ、【フィガロの結婚】のスザンナ、コンテッサ、【魔笛】のパミーナ、【イドメネオ】のイリアなどです。』
驚きの余り大きな声で3回はN先生に聞き返してしまった。【魔笛】のパミーナ???あれは日本人はコロラトゥーラやレジェロ系が歌っている事が多い。実際、去年の草津でのベーレンスクラスでも極コロラトゥーラに近いソプラノがレッスンを受けていた。そして何よりも私自身声楽の個人レッスンを始めてからパミーナを勉強する事を勧めた先生はただの一人もいないのだ!!!流石にこの選択には度肝を抜かれた。N先生いわくモーツァルト【魔笛】のパミーナはとてもリリック(叙情的)な声の役柄で、特に試練の場面等はドラマティックな要素も必要になる。日本での認識とはかなり違う事に自分自身戸惑いを隠せなかった。しかし他でも無いN先生が指摘されたのだ。勉強するしか無い。