谷岡先生に話した。「B先生からシューベルト【若い尼僧】はコメント付きで許可を頂く事は出来たがN先生からは許可が出なかった事、理由は【若い尼僧】はワーグナーなどを歌うドラマティックなソプラノが歌う曲だから。【こびと】もB先生のレッスンは受ける事が出来て許可を頂く事は出来たがN先生からは【こびと】のようなドラマティックな曲ではなくもっと小さくて美しい曲を歌う事を勧められた」 それを聞いた谷岡先生から少し驚きの様子が見えた。『N先生【若い尼僧】はダメって・・・?そうか、ワーグナーか・・・』
ここまで話したので全部話した。「ベートーベン【フィデリオ】のレオノーレもウェーバー【魔弾の射手】のアガーテも、ワーグナーの歌劇や楽劇は無理でもせめて【ヴェーゼンドンクの5つの歌】だけでも勉強したいと話したけどN先生からは全て『Only study, Concert No(勉強だけで本番は駄目)』と言われました」谷岡先生は黙って聞いていた。私は続けた。「もし勉強だけで演奏会本番で歌えないなら自分自身本当に勉強する必要があるのか、少なくとも今までワーグナーの勉強をしたくてドイツ歌曲を始めた。ワーグナー【ヴェーゼンドンクの5つの歌】は前の先生から一通りレッスンを受けている」
「2013年のワーグナーのメモリアルイヤーには【ヴェーゼンドンクの5つの歌】を演奏会で歌う事だけを目標に今まで頑張って来た。もう2013年は私には何の関係も無くなってしまった。一度でもレッスンを受けた曲を諦める事は余りにも辛い。それならワーグナーやレオノーレやアガーテも全て諦めて忘れてしまって、シューベルト【こびと】も本当は日本に帰って来てからなるべく早く演奏会本番に乗せたかったけれど諦めて、全部忘れてしまった方が良いのでは無いかと考えた」そう谷岡先生に話しているうちに、涙が流れて来た。それでも私は話を続けた。「確かにウィーンの先生方に指摘された事を《それはそれ、これはこれ》で棚上げして勉強して日本の演奏会で歌う事は出来るかも知れない。でも私は今そのような気持ちにはなれない。音大生でもプロでも無い勉強不足の私にあれ程丁寧で真剣にレッスンして下さった先生方がわざわざ『No!』と言われた曲を歌う事は、それは私は筋が違うと思う。だから、もう頑張らなくても良いのではないかと思う」そう話したらウィーンから抱えて帰って来たやりきれない気持ちがようやく開放されたような気がした。投げ出すのでは無く諦めるだけの話だ。自分は精一杯頑張った。