日本に帰国してからどうしたら良いのか解らず、ウィーンで通訳をして下さったM先生に「N先生からレオノーレもアガーテもワーグナーも全て、練習だけで本番は駄目だと言われてしまった。私がB先生の前でレッスンを受けた【こびと】の感想をお聴きしたい。ただ、この件についてはN先生には内緒にして欲しい」というメールをお送りした。M先生は丁度お仕事でイタリアにいたらしく、忙しいので落ち着いて改めて返事をくれる事とN先生には内緒にしてくださる旨の返信は頂いたのだが、実際の御返事はまだだった。その事も谷岡先生にお話した。
谷岡先生は少し黙って考えた後に静かに話し始められた。
『あなたの気持ちは良く解る。私もウィーンに留学してN先生にレッスンを受けていた時に自分自身レジェロのメゾソプラノと指摘されたので、物凄く自分のレパートリーにこだわった時期があった。でも私は自分のレパートリーにこだわり過ぎて却って遠回りをしてしまったので、あなたには色々な勉強をして欲しいと思う。確かにあなたが今そういう気持ちになれない事は良く解る。ウィーンでN先生やB先生やM先生から教えられた事を素直に受け止めて日本に帰って来てくれた事を私も本当に嬉しいと思っている』
谷岡先生は続けた。
『でも、あなたがワーグナーの勉強を目指してドイツ歌曲の勉強を始めた事、今まで辛い事や悲しい事や苦しい事があった時にワーグナーの音楽に慰められて支えられて励まされながら歌を頑張って来た事、それをあなたが諦めてしまったり棄ててしまったりする事は、それは私は違うと思います』
谷岡先生に言われて、一言も言葉が出なかった。ただただ泣いていた。帰国の飛行機の中のように涙が零れ落ちたのでは無く、ようやく悲しくて辛くて声を出して泣く事が出来た気がした。
シューベルト【若い尼僧】【こびと】の演奏会本番、レオノーレやアガーテやワーグナーの勉強に関しては今すぐ結論は出す事が出来ない事、私自身勉強する決心がついていない事、M先生からのお返事待ちという事で焦らず結論は少しゆっくり時間を置いて考えるよう谷岡先生からアドバイスを頂いた。私としては早く諦めてしまった方が、変な期待を持たない方が何よりも自分自身のためなのではないのか、いっその事、ベートーベンのマルツェリーネやウェーバーのエンヒェンなど自分のレパートリーとなる曲も含めて、ドイツオペラの勉強を無理にやる必要性は無いのではないかと考えたのではあるのだが・・・・・。